軽井沢町議会R4年12月定例会に「軽井沢町の小学校等でゲノム編集トマト苗をはじめとするゲノム編集食品を受け取らない・持ち込まない・使用しないことを求める請願」が“生活クラブ軽井沢支部”、軽井沢オーガニック給食を考える会の支部委員長、代表、共同代表から提出されました。紹介議員は寺田議員。

12月12日に当該請願を所管する社会常任委員会にて審議されました。委員構成は(横須賀桃子、赤井信夫、眞島聡子、木内徹、佐藤幹夫、市村守、遠山隆雄。敬称略。以下同様)。継続審議に挙手したのは4人(眞島聡子、佐藤幹夫、市村守、遠山隆雄。委員長は採択に加わらない)で委員会としては継続審議に決しました。継続審議の場合には本会議での採決にはかけられず、今回の定例会における本請願の取扱は継続審議となりました。

高校生の親としては食品の安全性には大いに関心があるところ。そこで今まで深く考えたことがなかったゲノム編集食品の安全性や今回の問題について調べてみました。

事の発端はサナテックシード株式会社※らがゲノム編集トマト苗を2023年から全国の小学校配布する計画を発表したことのようですが、サナテックシード社のプレスリリースからその旨の記述は見つかりませんでした。

※サナテックシード株式会社:筑波大学発のベンチャー企業。「最新の革新的バイオテクノロジーを利用して農作物を改良し、明日の子供達、明日の地球を守ることを目的として設立されました。」とは同社HP記載の言葉。

今回の請願内容と同義の主張が広がったのは、週刊女性2021年10月19日号に掲載された“遺伝子を破壊した野菜や魚『ゲノム編集食品』は安全審査なし、発がん物質の発見も” という記事が社会の関心を引いた側面もあるようです。

上記週刊女性の記事ついてはNPO法人食の安全と安心を科学する会(SFSS)がファクトチェックを行っており、記事ごとの検証では概ねレベル3(事実に反する)から レベル2(不正確/ミスリーディング)に判定、タイトルについては「フェイクニュース(レベル4)」としています。

農林水産技術会議のHPに掲載された記述がわかりやすかったので以下に引用します。

ゲノム編集食品とは何なのか?

ゲノム編集はもともと持っている性質を改変する方法。遺伝子組換えはもともともっていない新しい性質を付け加える方法になります。

遺伝子組換えは、外から新たな遺伝子をゲノムに挿入する技術です。それにより、これまで持っていなかった性質が付加されて、特定の除草剤をかけられても生き延びる作物になったり、害虫が食べるとお腹をこわすタンパク質が作られたりします。

一方、ゲノム編集の基本は、外から新たに付け加えるのではなく、働きがわかっている遺伝子を狙って切断などして、変えること。

品種改良 VS ゲノム編集

人は、約1万年前に農業を始めて、最初はこの自然の突然変異によって人間が利用しやすい良い性質を持つようになった植物を選抜して、栽培し始めました。100年ほど前からは、意図的におしべとめしべを掛け合わせる交配育種を始めました。こうした品種改良は自然だから安心だ、と多くの人が受け止めています。

交配という過程でも、生物が自らDNAを切ったりつないだりシャッフルさせた遺伝情報を人為的にミックスして、様々な新しい組み合わせの生物を作りだしています。

1920年代からは、人為的に突然変異を起こさせる品種改良も始まりました。強い放射線を当てたり化学物質をかけたりしてDNAを切って突然変異を起こさせる。人為的にゲノムの遺伝情報を変える、というのは別に新しいことではなく、近世に入ってからは人がずっと行ってきたこと。

「これまでの品種改良の方法でいろいろな食品ができているのだから、わざわざゲノム編集なんて方法を用いなくてもよいのでは?」という意見もあるが、作物を従来の方法で品種改良すると、商用化までに短くて数年、長い場合は数十年もかかる。一方、ゲノム編集作物の場合には、1年から4年ほどで商用栽培にこぎ着けられる、と言われている。食糧危機解決、砂漠の緑地化にも貢献できるのでは。

気になるのはゲノム編集食品の安全性

ゲノム編集食品の安全性といわれても、門外漢の私には信用できる人なり機関の意見で判断するしかないわけです。肯定派、否定派それぞれの科学的知見に基づいた意見を知り、あとは自分で判断するということです。以下では当事者である請願者とサナテックシード社の発表を記します。

請願者の意見 趣旨

  • オフターゲット現象により新たな毒性やアレルゲン、がん誘発物質の発生が危惧されると聞いている。
  • ゲノム編集が行われたことを確認するための抗生物質耐性遺伝子が含まれるため、抗生物質耐性菌が増えるおそれがある。
  • 一般圃場での栽培での花粉飛散による交雑や環境への影響が心配。
  • ゲノム編集トマト「シシリアンルージュ ハイギャバ」について、環境への影響を評価する試験や食品としての安全性を確認する試験が行わていない。
    など

サナテックシード社 発表の趣旨

  • 本件記事(注:先に記した週刊誌の記事のこと)には、弊社が販売を始めた高GABAトマトについて、「栽培した際の環境への影響、食品になった際の安全性は確認されないままでの販売です」ということが記載されていましたが、SFSSの検証にもありましたように、弊社では、ゲノム編集技術によるDNAの変化がヒトの健康に悪影響を及ぼす新たなアレルゲンの産生及び既知の毒性物質の増加を生じないか、また、生物多様性に影響がある可能性はないかということ等について調査・分析し、その情報について厚生労働省や農林水産省へ提出しています。また、これらの情報は、それぞれの省および複数の専門家により、実験方法の妥当性やデータから得られる結論に誤りがないかなどを確認されております。
  • 厚生労働省へ届出をした高GABAトマトは、自然界または従来の育種技術でも起こっている範囲内での遺伝子変化しか起きていない。科学的に従来の品種改良で作られたものと同等の安全性が担保されている。
  • 弊社が厚生労働省や農林水産省に、本商品の販売について事前相談を行った際には、今回の変異で標的以外の改変は起きていないこと、トマトの既知の有害物質として知られているトマチンが検出されなかったこと、また、ヒトの健康に悪影響を及ぼす可能性があるアレルゲンを新たに生じていないこと、といった情報についても提供しており、これらの情報が妥当な評価方法かつデータから得られる結論として、誤りがないという点について複数の専門家から確認されている。
  • 農林水産省に情報提供書を提出した本商品は、移入した外来遺伝子の残存はなく、遺伝子組換え生物等に該当しないということが、事前相談を通じ確認されている。

生物多様性影響について

生物多様性への影響については①野生植物を駆逐しないか②野生動植物に対して有害な物質を生産しないか③近縁の野生植物と交雑して拡がらないかという観点で評価されるが、形態、果実成分、栽培した際の特性を比較調査し、これらの性質がゲノム編集前の系統と同等であるため、農林水産省においても生物多様性影響は想定されないということが確認されている。

福本の意見

サナテックシード社の発言は監督官庁に提出した書類に準拠し、一般公開されている情報であることからもその信憑性、正確性は高いと判断することができます。そのうえで請願内容を見ると、いくつか事実誤認があるようです。交雑の心配や、環境への影響や食品としての安全性を確認する試験が行わていないという点が、週刊誌の誤った記述を鵜呑みにして書いてしまったのか、実際とは異なるようです(詳しくは上述の内容を比較して下さい)。

また今回の請願の提出資料に含まれていた“OKシードプロジェクト”のウェブサイトを見ると遺伝子組換とゲノム編集を同義としている、あるいは同義と理解するようにミスリードしている記述があります。

そのようなことから、福本も今回の請願を継続審査としたことを妥当と判断します。

内容とは違いますが、疑問に思ったのは小学校で児童に配布するゲノム編集トマト苗を問題にしているのに、請願者に小学校PTAの名前がないことです。軽井沢西部小学校のPTA役員に確認したところ、そのような議案提案はなかったとのことでした。

写真はイメージです