2023年1月17日、軽井沢町中央公民館にて軽井沢町町長選挙(17日告示、22日投開票)立候補予定者4人(下田修平氏、土屋みちお氏、押金ようじ氏、現職:藤巻進氏)による“公開討論会”が開催されました。駐車場はほぼ満車(写真は軽井沢町中央公民館前)。関心の高さが伺えました(名前の表記(ひらがなの使い方)は、各立候補予定者ウェブサイトの記載を踏襲)。

予め設定された質問7つに各立候補予定者が3分づつ話す内容。それぞれの声と考えを直接聞くことができて良かったのだけれど、「討論会」というので候補者同士が言葉を掛け合う「討論」を期待していたので、その点はちょっと残念でした。

今回の選挙で大きな争点となっているのはふたつ。ひとつは「新庁舎建設」。現職以外の立候補予定者はいずれも見直しを掲げています。ふたつ目は「自然保護」。軽井沢町の開発に伴い森林伐採が問題となっており、これをどのように抑制して美しい軽井沢の自然を守っていくのかというのが論点です。

新庁舎建設

新庁舎の事業費について、誤解をしていらっしゃる方が多いので、いくつか箇条書きで記します。

  • 総事業費110億円というのは、町が示した案であり、決定したものではありません。内訳は今月発行の議会だよりで分かりやすい表を掲載しますので御覧ください。
  • 110億円には中央公民館等周辺施設を建て替える費用などが含まれており、庁舎を建てるだけで110億円というわけではありません。
  • 110億円は地下駐車場や地下バイパス(軽井沢病院側に抜ける地下道)など、当初案にはなかった案が含まれつの金額ですが、議会ではこれに反対の意見を出し、町は撤回しています。この撤回を受けてざっくりいえば10億円減額となっています。
  • 庁舎単独での事業費はおよそ52億円です。
  • 当初案37億5千万円から、建材価格の高騰(15%。約5億6千万円)や町民から要望の多かった再生可能エネルギー(太陽光パネル)を取り入れた結果、約14億5千万円増となっています。
  • 町民の方々の希望、再生可能エネルギーを取り入れた結果建設価格が増大しましたが、こちらについては国の補助もあり、全額が町負担というわけではありません。また将来見込める電気料金の減額もあります。このあたりの試算を町に要望していますが、まだ数値はでてきていません。分かり次第ご報告します。

新庁舎単独での110億円という誤解が広がった理由

新庁舎単独での事業費は、先に記したようにおよそ52億円であるにも関わらず、単独で110億円かかるかのような誤解が生じた一因は、報道にもあるでしょう。誤解を招く報道がなされ、それを鵜呑みにした人による情報の伝播がある、と考えています。誤った報道とは、例えばKaruizawaWebのこちらのページ(新庁舎・複合施設の基本計画案を公表 総額110億円の見込みNo.230(2022年8月) 2022年8月12日)には次のような記述があります。

ワークショップにも参加した、地域政策に詳しい大河原眞美さん(高崎経済大学名誉教授・軽井沢町自然保護審議委員)のコメント

「総事業費110億円は、22億円の御代田町の5倍、建設予定の54億円の安中市の2倍以上となり、突出している。安中市では新庁舎建設が2022年4月に行われた市長選の争点の一つであった。当選した岩井均市長は、市役所新庁舎建設の精査を行い7月には安中市は財政負担の軽減と合併特例債の活用できる新庁舎という方針を打ち出している。

軽井沢町の事業費案としてでた数値110億円は、繰り返しですが、中央公民館の建て替えなど周辺施設の事業費も含めてのもので、庁舎単独の事業費は52億円です。したがって、庁舎のみの予算である御代田町と比較するならば、110億円と22億円を比較するのではなく、52億円と22億円を比較するべきですが、これを読んだ人は庁舎だけで御代田町の5倍のお金がかかるのだと誤解することでしょう。KaruizawaWebにおいては、自社の意見ではなく識者のコメントを掲載しているのだから誤解を招く表現を掲載している責任は自社にはないという立場なのかもしれませんが、読者が誤解する意見をそのまま掲載していることは報道機関の責任放棄になるのではないかと感じます。

新庁舎建設に関する各候補者の意見

現職の考えは町の考えですから、当然現状計画のままでの推進。他3人の候補者は、いずれも見直しを主張しました。

発言の意図が良くわからなかったのは下田立候補予定者が、「庁舎建設の事業費として適切なのは50-60億円」と述べた発言。現職は、今回の討論会において庁舎単独での事業費は52億円と述べ、下田さんはその後の発言で「適切なのは50-60億円」と現職と同じ金額が適切と述べていて、町の計画と同じですから争点になりません。むしろ、町の計画が妥当だと述べているわけです。もしかして、下田さんも中央公民館の建て替えなどを含む複合施設の建設事業費と庁舎単独の建設事業費を混同しているのかと思い、同氏のブロクを見ると次の記述がありました。

建物というのは、一般的に60年の寿命と言われており、その間に建設費の4-5倍のライフサイクルコスト(光熱・用水費、管理費、修繕費など)がかかるそうです。もし軽井沢町の新庁舎の総事業費≒建設費が100億円ならば、60年で500億円はかかりそうです。つまり、一年で8億円。これがもし総事業費50億円(このブログでも既に書いた通り、他地区の市町村庁舎改築費用の相場から、この額が妥当と考えます)で済むならば、ライフサイクルコストはその半分、1年4億円です。つまり4億円が浮きます。

「新庁舎の総事業費≒建設費が100億円」という箇所、また文章全体から判断するに、やはり複合施設の建設事業費と庁舎単独の建設事業費を混同しているようです。

押金さんは工事の分散発注によるコスト削減などを述べていました。

現職の次の発言は今まであまり表には出ていないので記します。

軽井沢の特殊性(注:観光客が多い)を考えると、危機管理から、他の市町村との単純比較はできない。首都圏で何かあれば、人口が五万人になるかも。近隣では、安く作ったものの、今は結露で対策費がかかっている。

結露の対策費は御代田町の例を示していると思います。

自然保護

軽井沢町は人口増の状況が続いており、また別荘地としての人気も高く、ホテルや集合住宅建設による開発も続いています。それに伴う森林伐採による環境悪化が問題として挙がっています。当町の魅力のひとつ、豊かな自然を破壊しているという危惧で、町長選挙でも大きな論点となるでしょう。各立候補予定者は次のように述べました。

土屋さん:用途地域の変更で自然を守る。

下田さん:景観行政団体になって自然を守る。

藤巻さん:景観行政団体については検討している。

押金さん:用途地域の変更は、既存建物への影響大きく現実的でない。特別用途地区を導入する。これによって用途地域を変更することなく(開発に対して)特に厳しい地区を設定できる。

>> 用途地域について

>> 県内の景観行政団体

議会と町づくりを語る会では、「軽井沢町自然保護対策要項には罰則規定がない。条例化して罰則規定も設けるべきだ」という趣旨のご意見を複数いただきました。ただ残念ながら、これは法的にできません。法律には憲法、法律、条例とあるわけですが、下位にあたる法律は、上位にあたる法律よりも厳しい規制等を行う、いわゆる上乗せは原則できないからです。現職や下田さんが景観行政団体について言及しているのはこの問題の解決を目指してのことです。

用途地域の変更について押金さんが「既存建物への影響大きく現実的でない」と述べているのは、用途地域を変更して緩い規制から厳しい規制に変更をした地区にある建物が受ける影響のことを示しています。緩い規制では適合していても、厳しい規制下では適合しなくなる建物は、将来改修などができなくなるからです。